潜在性 開花させよ

瀬戸内三橋開通に寄せて~山陽新聞(1999.5.2)

五年前、阪神・淡路大震災一週間の時点で、がれきと弔いのまち・神戸から、岡山に入ったときの感激は忘れられない。

高松から瀬戸大橋を通っての道すがら、初春の陽光にきらめく瀬戸内海はどこまでもやさしく、この世のものとは思えないほど美しかった。その瀬戸内海に三橋時代がやってきた。ずっと瀬戸内海は、中国地方と四国の暮らしを隔てる海だった。物も人も、それに伴う情報も、中国地方を東西へ、四国からも大阪へと東西に流れるしかなかった。

しかし三橋時代を迎えて、四国は四国半島になった。経済も文化も、異質な文物との交流で発展する。整備されつつある交通インフラで結ばれて、中国・四国の南北交流は、この先どんな新しい驚きを生み出すのだろう。

心配すればきりがない。本州四国連絡橋公団は4兆5千億円の借り入れを抱えて火の車。国鉄清算事業団の二の舞にならないとも限らない。架橋に伴う地元自治体の負担は限度を超え、交通量の伸びを前提に予測された地域振興効果は未知数のまま。三橋も結局は本四間交通を奪い合うゼロサム・ゲームを演じるのではなかろうか。バブル時代の楽観が、いま戦後最大の不況の中で悲観に転じているのも無理はない。

それでも、橋のない瀬戸内圏と橋のある瀬戸内圏は根本的に別の世界だ。鉄鋼、化学、輸送用機械、衣服などを売り物としてきた岡山の産業構想は、陸続きとなった四国との関係、近づいた関西経済圏との関係においてその意味を変えるだろう。

観光客の流れはいま、岡山、四国を向いている。つながってひとつとなった中四国圏は、動脈産業と静脈産業のバランスの上に天賦の生態環境に配慮した生活圏を作り出すことができる。岡山県の進める岡山情報ハイウェイ構想は、県道に光ファイバーを埋め込む方式を、全国に先駆け「岡山方式」として国に認知させてしまった。

これからの生活・経済圏域の魅力は、デジタルと身体がキーワードと思われる。産業や行政、教育、医療などの電子化で、これからの地域生活は格段に便利になるだろう。便利さと並んで、電子信号に乗らない肉体生、接触、土、水、自然、アウトドア・ライフも重要となるだろう。

瀬戸内にはこれら両方を実現する滞在性が眠っている。それを開花させるには、外からの血を歓迎することも大事だろう。外国企業の進出、他地域からの住民の流入、異文化との交流、これらすべてを大切にしたい。

自治体の財政赤字は永久に続かない。15年かかったが、イギリスはイギリス病を克服し、アメリカは10年で財政赤字を解消させた。日本でも新しいアイデアがいずれは経済を救うに違いない。問題は、苦しいときに企業や地域が何を準備するかだ。瀬戸内は四国を陸続きにした。21世紀の整備をしたと思いたい。