神戸新聞(2011年4月2日) 大震災再生への視座6
政府は東日本大震災の直接被害額を最大25兆円と見積もる。阪神・淡路大震災の2.5倍だ。当時、兵庫県の復興計画策定調査委員等を務めた同志社大学大学院教授の林敏彦氏(68)は「新規立法や財源の創出が不可欠。『原則にとらわれるな』が阪神・淡路の教訓」と訴える。
-戦後最悪の災害となった。
「政府の試算額は小さすぎる。現時点で死者の行方不明者は2万7千人を超えた。これらを基に推計すると、直接被害だけで45兆円に上る。今後10年間、復興に毎年5兆円を投じたとしても、日本のGDP(国内総生産)比1%。十分に耐えられる額だ。」
-阪神・淡路では、政府が住宅再建への現金給付をかたくなに拒んだ。
「非常に悔しい思いをした。私有財産に公費を投入しない原則が、復興への壁になった。地震から3年後の1998年に議員立法で被災者生活再建支援法ができたが、家の再建に支援金が使えるようになったのは2007年。あまりに時間がかかった」
「道路や港湾など社会資本の再建は、原形復旧が原則。これも意味がない。震災を教訓に、被災地の歴史や文化を大切にしながら新しい地域をつくる必要がある。残念ながら、兵庫は新たな価値を生むような復興は成し遂げられなかった。今回は東北に新首都を築くぐらいの構想力が要る。既存の法律解釈による対応では限界がある。政治がリーダーシップを発揮して復興のための新しい法律をつくるときだ」
-財源ついてどう考えるか。
「再建支援法は、都道府県でつくる基金と国が被災者に最高300万円の支援金を出す仕組みだが、財源、支給金額ともに足りない。まず、ばらまき政策を見直した上で『復興国債』を発行し、同時に『復興消費税』の時限的な導入を打ち出してはどうか」
「消費税は使い道を復興に限ることで、国民の理解を得られると思う。日本国債の暴落を招かないためにも、政府は市場に対して『国債の償還には復興消費税を充てる』と財源を担保していることを明確に伝える義務がある」
(聞き手・小林由佳)