経済の数字は全て人間だということを忘れるな!

『Handai Walker』(1999.No.26)

そんなわけで私は経済

私が大学に入学した年は昭和37年で、身内にも周りの人間にも大学出の人間がいなかったんですね。そんな状況で、大学というものすらわかってないのに、法学部と経済学部の違いがわかるはずないでしょ?結局最後に経済学部を選んだ理由は、京大に岡山出身のえらい経済学者の先生がいるという、ただそれだけでした。
プロフィールをみていただければおわかりのように、私は岡山県の出身ですからね。

そんな適当な理由で入学した私がまじめに勉強するはずもなく、京大にギター部を創設して演奏会を開いたりして喜んでいるような4年間を過ごしていました。

卒業して就職しようと思ったんですけど、どこの企業も採用してくれないんですよ。
ある金融機関では3人京大から面接を受けて私だけ落ちた、ということもありました。
その時の面接官に「君のような天才の才能は、広く天下に解放されるべきだ」とおだてられて大学院に進もうと思ったわけです。

私は京大大学院の試験には落ちたのですが、それで阪大大学院を受けたとき大学時代のある教官の台詞を思い出したのです。
そのうだつの上がらない教官が、退官記念講義の時におっしゃった言葉なんです。

「君達のこれから出逢う数字のひとつひとつは現実に存在する人間だということを忘れないでくれ」

もう頭の中に稲妻が走りましたね。
その言葉が今でも何かことあるたびに思い出されるんです。今考えれば、それが直接私が経済を志した要因と言えるかもしれませんね。

気が多し 専門分野

最初、専門を選ぶのはとっても苦労したんですよ。何しろ気が多い性分なもんで。結局最後にたどり着いたのは電気通信分野で、「サイバー社会における法と経済」というものでした。

みなさんはこれから21世紀を迎えるにあたって、どれくらいネットワーク化が進むと思いますか?
例えば大学という組織をネットワーク化する事ができれば、日本中の大学生がインターネット上で各分野において日本で一番の先生の授業を聞けば十分という状況も考えられるわけです。
でも知識の側面で大学という物を作ることができても、結局のところ現在の大学の存在は無くならないでしょうね。人はだれも群れずには生きられないでしょう?だからその場所を求め続けるものなのです。やはり大学は学ぶだけのところでは無いのですから。人間同士の交流の場としての大学及びキャンパスはこれからも生き残るのではないでしょうか。

大震災におもうこと

私の家は兵庫県神戸市の東部で、4年前の阪神大震災の影響をもろに受けました。
不幸中の幸いで全壊は免れましたが、近所はさんざんなものでした。震災における犠牲者の数6430人は、関東に行けばただの記録としての数字ですが、実際には一つ一つにそれぞれの人生があったのです。

それだけの人生を想像できる人は日本中探したってほとんどいないでしょう。

その後、災害復興委員会のメンバーになりましたが、学者はとかく専門分野にこだわる傾向があって、本当に必要な処置にたどり着かないことがしばしばありました。

経済学者への皮肉でこんな話があるんです。

ある男が明かりの下で落とし物を捜していて、通行人にどの辺に落としたのか聞かれます。
すると男は暗闇のほうを指すのです。
(暗いところは見えないから明るいところを捜しているということ)

つまり、自分の専門外のことは最初からしない、挑戦しようともしないというイメージが経済学者にはあるんですよ。

災害復興のときに行政側に立って感じたこともそれに似た感じがあって、人間である被災者を相手にするというより、ただ理論にこだわって、つまり数字を相手にしている感じがぬけないのです。

これでは日々の現実ひとつひとつ戦いながら生活している被災者の希望を叶えられるはずもなく、本当に必要なところに必要な物資や政策を届けることができているかどうかは大いに疑問です。

あの大震災からもう4年以上経って、現場の外では過去の出来事になろうとしています。私たちはあの事件から一体何を学んだのでしょうね。

最近の取り組み

最近の私の興味の方向は、阪大にコミュニティーFMを立ち上げることなんです。アメリカの大学には大抵コミュニティーFMがあるんですよ。
一度放送局そのものを立ち上げようとしたのですが、電波の領域が余っていなくて、そちらの方面は断念せざるを得なかったんです。そこで今は方向転換して、ソフトを作って尼崎とか箕面とかの地方FM局で流してもらおうと考えています。

実は、わたしの他にもいろんな先生がこのプロジェクトに関わっているんです。
そのうえ、もうデモテープも2本作りました。それで、学生に呼びかけて1チーム4人くらいのグループを4つぐらい作ることができないかと考えています。そうなったら、各グループ1月に1本ペースで番組を作成していけるようになるんですよ。
学生たちの部屋も作って、NHKの方に来ていただいて番組作成の指導をお願いするなんて計画もあるんです。今のところ1グループできているんですが、まだまだ足りませんね。 早くできないでしょうかね?

プログラムの名前でさえもう決めてあるんですよ。”University Avenue”って言うんですよ。
いい感じでしょ?

阪大生に思うこと

阪大生を一言でいうと、「こざかしい」になりますね。
とにかく新しいことに挑戦しようとしない。自信がないんでしょうかね。
それと、阪大生はとかく自分たちのレベルを基準にものを考えすぎる傾向があるようですね。たとえば経済学部では、究極の合理性を仮定としてもつ理論を多く勉強しますが、世の中には合理的とはまた違った考え方をする人のほうが多いということを忘れないようにするべきでしょう。
また、そういった人たちの行動パターンを知ろうとすることも重要なことだと思います。