超一流の人と物を大切に~ごちゃまぜの魅力で都市に活力を

~『ROUND近畿』(1999.1.Vol.36)

経済や文化が集中し、光り輝いていた都市。その都市が今、大きな転換期を迎えようとしています。人々を引き寄せる魅力あるまちにするにはどうすればよいのか。今、都市に活力を与えるために求められているものは何か。
これからの時代の都市のあり方を「大阪の将来像検討委員会」や「大阪湾ベイエリア推進協議会」などを通じて検討、提言している大阪大学大学院教授の林敏彦氏に伺いました。

「ごちゃまぜ」論理で活性化

--近畿の都市は今、どのような問題を抱えているのでしょうか?

【林】都市を、産業構造という面から見た時、象徴的なのが大阪湾臨海都市の衰退です。重厚長大企業の立地で全国に先駆けて発展を遂げたものの、産業構造の変化で真先に打撃を受けました。

一方、京阪神の都市部は第3次産業の占める比率が7割を占めるなど、典型的な都市型産業構造を示しています。しかし、第3次産業だけで、社会資本整備や住民サービスも今後継続して支えるだけの付加価値を生み出すことができるか、4人に1人が高齢者になるという超高齢化社会に備えた財源を確保できるかというと、これには無理があります。

大阪の場合は、後背地の製造業が第3次産業を支えているのです。つまり、都市が活力を維持していくには、ハード産業とソフト産業の両軸が必要なのです。工場や大学が都市を離れて都心の空洞化や若者の流出をもたらしたのは、工場等制限法などの政策によって都市自身が招来した問題です。

今、都市に求められているのは「ごちゃまぜ」の論理です。製造、物流、居住等が適度にミックスされ、産業と暮らしが共存できるような仕組みを考えることが必要でしょう。

--大阪は将来どういう都市になっていくのでしょうか。

【林】大阪人は、アイデアはいいものを持っているのですが、完成させるのが下手なのです。新しいビジネスは、たいがい大阪から生まれますが、成功するのは東京です。人材を育てられないのですね。大阪を活性化させるには、ユニークな人材を外部から迎え入れることが必要です。都市を経営するという観点から見れば、まず最初にどういう人たちに来てもらって、どんなまちにするかという経営目標を設定しないといけません。おもしろいことを考える人間をどんどん受け入れ、アイデアを実現させる。そういうノリの良さ、軽さといったものが欲しいですね。

また”庶民の街”にこだわり過ぎるのもどうでしょうか。大阪に超一流の人が住める場所や集まるサロンがあるでしょうか。たとえば、ニューヨークには若い有能な人たちが集まってきています。その人々がさらに都市の魅力をつくり、活力を生み出すのです。超一流の人や物が集まれば、懐の深い、厚みのある都市ができます。大阪を超一流の人や物を大切にするまちにすること。意図的にそういう方向にもっていくことが必要です。

皮膚感覚に訴える都市

--都市に求められるものが変わってきているということですか。

【林】これまで、人は利便性を求めて都市に集まってきました。人々が究極まで利便性を追求した結果が、現在の高度情報化社会です。ところが、情報化が進み、今では地方にいても都会と同じサービスを受けることができます。都市にわざわざ出かける必要がなくなったのです。

では、21世紀の社会における都市の魅力は何かというと、それは電子化されない情報です。匂いであるとか、味わい、ふれあいという皮膚感覚に訴えるもので、地域に土着のもの、たとえば伝統や文化といったものもそうです。これからのまちづくりには、こういった要素が重要視されるでしょう。

一つの都市の中にも、人が住みたいまちやコーナーが形成されるでしょうから、これを見守っていく、あるいは邪魔をしないということも、都市の活性化を考える上で大切でしょうね。

--都市の再生について、行政はどのように取り組むべきでしょうか。

【林】社会環境の変化に対応できる柔軟性や、軌道修正が必要です。さらに、まちづくりにはそれをリードする首長や担当者の人間的な魅力、熱意が大きく作用しますから、キーパーソンとなる人材の発掘、育成にも力を入れるべきでしょう。

ただ、現状は行政に負担がかかりすぎている感があります。そろそろ日本でも”プライベート・ファイナンス・イニシアティブ(PFI)”等のシステムを考えてもよいのではないでしょうか。このPFIは、公共サービスをすべて自治体が引き受けるのではなく、民間も分担するというものです。民間が公共施設を設計・建設、運営して財源も賄います。公共機関は長期契約でその施設やサービスを購入し、公共の責任において住民に提供します。

たとえば、民間のビルに国立大学がテナントとして入居、そこでサービス(講義)を提供します。行政は資産を持つことなく、少ない資金で公共サービスを提供できます。イギリスでは、このシステムを導入してすでに実績があがっています。

オール近畿を目指して

--これからの近畿は、どのような方向に進むべきだとお考えですか。

【林】近畿には日本海も太平洋もあり、実に多種多様な自然環境に恵まれています。しかも、都市部に経済活動が集中している非常にいい環境で、これが近畿の財産です。この財産を活かすには、全部が同じ形で発展する必要はないわけで、それぞれの地域特性に応じた活性化を目指せばよいのです。極端にいえば、都会的な発展を断固拒否する所があっても良いと思います。

紀淡海峡の両岸地域には、美しい自然があります。そこに従来型の開発を持ち込む必要はありません。たとえば、風力発電等のクリーンエネルギーの基地にする、という考え方があっても良いわけです。

--地域と地域、各府県間の連携も大切ですね。

【林】近畿二府五県は、それぞれ個性豊かですが、互いに別の方向を向いて努力していたのでは成果が望めません。近畿の活性化には「オール近畿」という視点に立った戦略が必要でしょう。そのためには、知事会議などを今以上に格上げして、問題点を調査検討するブレーンをつけ、ここに作戦本部として近畿の統一戦略を打ち出します。そのうえで、戦略的・集中的に資金を投入する子とが大切だと考えます。