以下は、表題の記事(『週刊新潮』1998年10月1日号)からの部分的引用です。
<前略>
大阪大学の林敏彦教授がいう。
「クルーグマン教授も指摘していますが、日本はケインズ理論でいう”流動性のわな”に陥ってしまっているんです。つまり、通常は金利が下がると、カネは預金から消費や投資に流れますが、金利がほぼゼロの水準にまで下がってしまうと、逆に消費や投資を手控え、現金を持つ、という異常な状態になる。金庫が売れたのもこの流動性のわなに陥ったからです。こういう状態からデフレ不況が進んでしまったんです。では、消費や投資を活発にするにはどうしたらいいかというと、物価を上げて実質金利をマイナスにするしかありません」
無理やりインフレにして、現金で持ち続けると、目減りする、という状態にしてしまえば、いやでも資金は消費に向かう、という。
「インフレにするためには、通貨を市中にばらまけばいいんです。日銀の国債引受を禁止している財政法を改正して日銀に国債を買い取ってもらい、その資金を市中にばらまくことです。もっとも、無制限にカネをばらなくと、ハイパー・インフレになりかねませんから、通貨の番人である日銀が1%なり2%なりのインフレ率を目標に掲げて、インフレを調整すれば心配はありません。クルーグマン教授は、日銀は不真面目な政策をとれ、といっていますが、私も今の日本には調整インフレが必要だと思いますね」
<中略>
カリフォルニア大学の星岳雄助教授もいう。
「今の日本の状況は財政政策も金融政策も打つ手がなくなっている。唯一、残っている方法がインフレ的政策です。インフレ的政策をとると、まず、値上がり期待から投資が喚起されます。また、負債の実質価値が下がることから、銀行や不動産業者の救済になる、という声があるかもしれませんが、公的資金で尻拭いするよりも、ゆるやかな値上がりで全額返済させた方がより公平です。もちろん、円安になり、東南アジアで通貨の切下げ競争が起こるかもしれませんが、それは政治的な問題。政治的問題のために時刻の経済状況を放置する方が問題です。」
だいいち、日本の対米貿易は大幅黒字。早晩、円高に見舞われる可能性があるだけに、円安は好都合だという。