<財団法人阪神・淡路大震災記念協会/国際セミナー(1998.9.30~10.1):1998.10.12『兵庫ジャーナル』より>
(財)阪神・淡路大震災記念協会(理事長=石原信雄地方自治研究機構理事長)が、近代文明の新次元-情報革命の進展による『交流と多様性』を求めて」をテーマに国際セミナーを開いた。
9月30日、10月1日の2日間に、会場となった神戸市中央区内の県立神戸学習プラザには大学などの研究者ら延べ105人が参加した。
昨年12月に設立された同協会は、震災の教訓を踏まえた人類の安全と共生にかかる総合的な調査研究を事業の柱のひとつにしている。
(1)阪神・淡路大震災の経験を生かした災害対策、(2)新しい社会システムなど21世紀文明の創造を研究課題に設定し、研究企画委員会(委員長=芹田健太郎神大大学院国際協力研究科教授)の委員が5班に分かれて活動を行っている。
今回のセミナーでは、研究成果の発表とともに部外の研究者らの意見を聞き、調査研究を一層深めるのが狙い。
セミナーは、持続的発展の可能性を探ることを目的に、情報化やグローバリゼーションを視野において次の3つの分野から問題提起を行い、近代文明の新次元について考察することにした。
「経済システム」、「エコロジー(生態環境)」、「都市空間」の3つのセッションと、それぞれの分野を超えた総括セッションで構成。
セッション1「経済システム」では、林敏彦阪大大学院国際公共政策研究科教授らが、工業社会から脱工業社会に向けて、情報の産業化やコミュニティビジネスの今後の展開方策について意見交換。
セッション2「エコロジー」では、中瀬勲姫工大自然・環境科学研究所教授らが、情報社会における人と人、人と自然との交流と調和を探った。
セッション3「都市空間」では、橋本介三阪大大学院国際公共政策研究科教授らが、震災で明らかになった都市の弱さを克服し、個性と住民参加を重視した都市空間づくりのあり方を討議した。
これを受けての総括セッションで、林教授は「従来は全国的な産業配置の効率性の中で地方都市が位置付けられてきたが、地域が独立した自律型経済を志向し、都市間競争を活発化させるべきではないか」、中瀬教授は「環境ビジネスやエコテクノロジーなど経済と連結した自然との共生を、まちづくりの中で考えることが重要だ」と経済、環境の分野から今後の方向を示唆した。
橋本教授は「合理的包括的な全エリアをカバーした都市計画は、もはやないだろう。さまざまな問題はあっても、まず行動を起こし、その中から生まれたリアクションを通してこそ、都市の進歩、創造が図られるのではないか」とまちづくりにおける前向きな姿勢の大切さを強調した。
さらに、林教授は、「震災直後から復旧の過程で大きな役割を果たしたボランティア活動などにより平時には見られない贈与経済が出現し、被災者を助けた」と例をあげ、高齢者、弱者にやさしいまちづくりのために「市場経済と贈与経済の複合構造のあり方を探るべきだ」と提言した。
終了後、同協会の元治調査第2部長「議論が深められ、今後の調査研究活動に役立つだろう。部外の研究者とネットワークを広げる一助にもなった」と成果を話している。
今後、さらに調査研究を進め、来年1月の震災4周年記念事業では一般県民参加によりシンポジウムを開催し、情報発信するとともに11年度中には研究成果をまとめて発表する方針。