ヨーロッパ大学

「ECONの風景」『経済セミナー』517号(1998年1月)

ここのところ大きな経済ニュースが相次いでいる。
三洋証券の破綻、北海道拓殖銀行の営業譲渡、そして今度は山一証券の自主廃業決定。
長引くバブル経済崩壊の余波の中で、日本の金融システムに内外から厳しい目が注がれている。

金融産業における相互依存の論理が結局システムの外には何ら説明力を持たないことが明らかとなり、
金融ビッグバンを目前にして、アンシャン・レジームが音を立てて崩れていく。

アジア太平洋経済協力会議(APEC)でも、
貿易自由化とならんでアジアの金融・通貨の安定が最大の話題となった。
通貨をドルとリンクさせたアジア各国は、アメリカの繁栄をシェアできるよりも、
強すぎるドルの犠牲となり、これまでの急速な経済成長を減速させている。
気になるのは、中国の都市部を中心とする不動産と株式のバブルがいつ崩壊するかということである。

そしてマクロ景気は足踏み状態。
政策的手詰まり感、企業の新規開業件数が閉業件数に及ばない閉塞感、予想される暖冬、
それに金融不安の心理的影響も加わり、生産と消費の好循環にはなかなか火がつかないままである。
新聞にも現状を厳しく認識する声が次第に高まっている。

そうした中で、政治的には内向きの管理体制が着々と整えられている。
政府の行政改革会議が決定した省庁再編案によれば、
霞ヶ関の既存の128局が新たに1府12省に大括りにされる。
マスコミは大蔵省の財政と金融の分離の行方、公共工事をめぐる建設、国土、農水の重複、
郵政3事業の帰趨、防衛庁の省への昇格があるのかないのか等を競って取り上げるが、
今回の改革で最も恐るべきは総務省ではあるまいか。

新たな省庁体制のもとでの総務省は、内閣府と並んで内閣の調整事務を担当し、
特に人事・組織管理等の行政管理事務、行政監察事務を担うとされる。
しかし、今考えられている総務省は、現在の自治省を母体に、
内局に情報通信・放送行政を含み、外局として郵政事業(5年後に郵務公社に移行)、
公正取引委員会、公害等調整委員会を掌握する。

こうした総務省は潜在的に極めて強力な内政管理機能を持つ。
すなわち、地方交付税交付金と起債枠の管理を通じて全国3千3百の自治体を牛耳ることができ、
全国2万6千の郵便局を通じて特定目的遂行のためのキャンペーンを張り、
産業界には準司法機関としての公正取引委員会を通じて目を光らせ、
放送行政を通じてはテレビ・ラジオ等マスコミまで影響力を発揮することができる。
たとえば、総務省出身者が県知事になることは今以上に容易となるであろう。

これでは最終的に公安警察まで持つに至った戦前の内務省の復活だと言われても仕方がない。
唯一の救いは、情報公開法が省庁の再編と並んで制定実施されそうなことだ。
行政情報公開部会の意見によれば、情報公開法制は
「行政文書に対し国民一人一人がその開示を請求することのできる制度(開示請求権制度)」
を中核するという。
それによって公正な行政運営が一層図られ、国民の責任ある意思決定が可能となるともいう。

国民の税金を使って集められた情報は、もともと国民のものだとの考えに立てば、
行政文書の開示請求権制度は当然のことである。
これに既に施行されている行政手続法を合わせ考えれば、
ひとまず強大な総務省の権限をチェックする制度は用意されていることになる。

したがって、新しい総務省の暴走を許して民主主義の根幹を危うくするか、
それとも行政運営上の効率改善によってより国民のニーズにセンシティブな政府を手に入れるかは、
ひとえに国民の情報を要求し意思決定する行動にかかっていると言えよう。